自転車週末ラグナロク
最初、誘導のため先頭をきってゆっくり走っていた。その小学生くらいの坊主頭の少年の自転車が私の自転車の背後にまわった。
路地裏の薄暗いゆるやかな傾斜の下り坂に入った。少しくだると道路の先に何かある。
車椅子に腰掛けた男だ。歳は30歳前後だろう。少年への合図か、こちらから見て右側へと手で矢印を作っていた。
男はおもむろに立ち上がり、歩いて近づいてきた。
私とすれ違い、少年とはなしているようだ。
私はそのまま進み、左に曲がった。
どぶ板がある建物と建物の間の路地、自転車1台がやっと通れる隙間だ。
そこを進むと大きい通りに出た。だが人や車がいない。
左に曲がり、来た方向にハンドルを切って進んだ。
後ろ向きにペダルを逆回転して、今出てきた路地を見ながら進んだ。
すると男が通りに飛び出してきた。
こちらを確認するとダッシュでおいかけてきた。
自転車の逆回転のスピードをあげた。しかし男の足は早く、あっという間に
追いつかれた。男は何も言わない。
私は「あんた、思った以上に足が早いな」車椅子とのアンバランスさに少し怖くなった。男は私のハンドルから手を離すと、元来たほうを振り返り、ついてこいと言わんばかりに歩きだした。逃げても無駄とわかったろうと背中で語っていた。
私は今度はまともにペダルを漕ぎ始めて、元きた方向とやはり逆の方向に進みだした。
振り返らずに進むと、車が多い通りに出た。ガードレールの隙間から自転車を入れて車の多い通りに合流した。
やつはどう思ったのか。最終兵器を人質にしていた奴は、私がこの国の政府からの交渉人だから言うことを聞くと思っていたのだろう。
とんだお門違いだったね。
私は子供の頃から人の期待を裏切るのが好きだった。
その反応を見るのが楽しかった。
今回もしてやったりだ。
これでこの国が地上から無くなろうと、私の知ったこっちゃない。
ふふふ、自分の信念に生きる。ポリシーを曲げない。
私はわたしに忠実だ。
さて、相手がどう出るか反応をみるとしよう。